考える練習

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まわし!牛乳!ぼでぃくらっぷ! - 「結-MUSUBI-」感想

NON STYLE の石田さんが脚本・演出でのノンバーバル(言葉を使わない)演劇ということで、どうなるんだろう…とドキドキしていましたが、手品に殺陣にダンスにボディクラップに、単純にコメディ舞台ではなくてなんかいろいろ盛りだくさんで、初日は「いや情報量が多い!」となりました(笑)

劇場

(東京) 大和田さくらホール

初めての会場。今回3列目が最前だったんですが、ステージが低いのか、4列目の段階でわりと前の人の頭がかぶって見づらい。その分最前は非常に見やすかったです。

(大阪) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

2.5でよく使われるWWホールのお隣。F列から段差あり。その前だとこちらもわりとかぶるので、最前かF列以降だな~という感じ。
あのあたりめちゃめちゃ久しぶりに行ったんですが、今っていろいろお店あるんですね。大阪城ホールやWWホールでも催し物やってたら席足りなさそうではありますが、カフェとかレストランとかいろいろあって隔世の感。ローソンに地味にイートインがあるのが助かる。

内容について

ノンバーバル演劇は以前「梅棒」さんの公演を見たことがあるんですが、そこはJ-POPの曲に乗せて主にダンスで魅せるタイプの公演で、話の筋は比較的シンプル、表情や仕草は通常の芝居よりオーバーめだったので、「結」もそういう感じの芝居かなと予想していました。実際はメインの話の筋はシンプルではありますが、話運びや表情・仕草は通常の芝居に近い感じだったので、また印象が違っていて、新鮮でした。思ったより細かいところまで伝わってくるんですよね。表情からこんなに情報を受け取れるんだなというのは驚きでした。

セットは固定で、場所は相撲部屋。真ん中にどんと土俵があり、奥には窓とドア、そこから出入りしたり、窓から外がみえたり。

そこにわらわらと四兄弟(長男:株元英彰、次男:廣野凌大、三男:杉江大志、四男:小野塚勇人)が登場するんですが、しょっぱなからまわし姿。稽古のオフショットからまわし姿があるのはわかっていたんですが、最初からそれで来るとは思わなかった…。ただ、結局ほとんどの時間まわし姿なので、最初こそどぎまぎしましたが、なんとも思わなくなってきたのは面白かったです。人間何事も慣れる。(ちなみに、まわしonlyではなく、下に肌色の二分丈ぐらいのアンダー履いてました。あと素足だと危ないからか、足袋っぽいのを履いてた)


ざっくりあらすじとしては、4兄弟が稽古に励んでいるところに妹が婚約者を連れてくる。婚約者の顔がブサイクだったことにより、「こいつでいいのか!?」と一悶着。しかしなんだかんだの末にハッピーエンドという話。

一応、話の筋はあるんですが、あんまり重要ではないんですよね。脚本書いたのが元々演劇畑の人ではないからか、コメディ演劇というよりは、コントが延々続いていくような印象。

ただ、さすがにお笑いの世界でずっとやってきた方だけあり、笑いの部分がちゃんと面白い。もちろん人によって刺さる刺さらないの違いはあるので、めちゃめちゃウケちゃうところもあれば、くすっと笑っちゃう程度のところもあるんですけど、スベったことによる笑い、失笑による笑いがないんですよね。程度はともかく、ちゃんとおかしさによって笑える感じ。


「結」へ向けてのインタビュー記事で、お笑いをやっている人はなんとなく感覚でわかっている笑いの仕組みを分析して言語化していくことで共有したいという話が出てきていたんですが、今作を見ていると、こういう状況でこれやると面白いっていう法則性が見えるような感覚があって、インタビューで言ってたのってこういうことなのかな~と思ったりしました。
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ルールへのアンチテーゼ?

「結」の世界におけるルールとして、「喋ってはいけない」とは別に「女性を土俵にあげてはいけない」というのがあり、実際の世界でもそうなので*1、「まぁそうだよね」と思ってたんですが、なんとこのルール、ラストで女性を土俵にあげてもOKになります(笑)

うっかり妹が土俵を踏んでしまったことによって現れた存在をみんなで倒したことにより、OKになるんですが、この部屋で女性を土俵にあげてはいけなかったのは実害があったからで、その問題が解消されたら誰も気にしないというのが面白いなと思いました。絶対的なルールではなくて変えられるものとして提示されているように感じました。

見た目いじりはありやなしや

婚約者に対しての異議申し立ての理由が「顔がブサイクだから」というのは初日「えっ、まじで??」と思ったし、だいぶもやもやしました。ただ、この追い出そうとするくだりはめちゃめちゃおもしろかった。

何とかして婚約者を追い出そうと画策する5人(4兄弟+兄弟子)。順番に挨拶させていって、その動線でドアから退場させてみたり、トイレに追いやって閉じ込めてみたり。追い出しに成功すると「エンダァァァァァァァァァァァァァイヤァァァァァァァァ」が流れ、5人が喜びを表現する動きに(笑)

まだろくに話もしてないのに追い出される婚約者めちゃめちゃかわいそうなんですけど、ばんってドア閉まった瞬間に「エンダァァァァァァァァァァァァァイヤァァァァァァァァ」ってなるのめっちゃおもろいんですよね。あと導線で退場させるやつ、キャストが複数いるのをオタクが巡ってくタイプの接触じゃん…って思ってしまってウケた。

当然妹は怒るんですけど、諦めない兄たち。自分たちを含めて顔がいい順に並べるよう、妹にリクエスト。ここでもやはり婚約者が一番だとする妹に「目が悪いんじゃないか?」と言い出す三男。どこからともなく視力検査の表が出てきて(笑)、試してみたら案の定見えていない。メガネをかけて再チャレンジしてみるも、やはり婚約者が一番とする妹。

ここ、全体の見た目じゃなくてまじで顔の話だったのかって点ではきついんですけど、メガネかけて見てみたらブス…!じゃなくて、メガネかけてもやっぱり婚約者が一番だった点はよかったなと思います。

まぁここで終わってたら、「美的基準は人それぞれ」ってところでそこまで悪くない話運びかな~って感じなんですが、見た目いじり、もう一箇所あるんですよね。この後、婚約者がホームビデオを取り出してみんなを撮ろうって感じになるんですが、そこで、兄弟たちを撮る時は「キャー」っていう黄色い悲鳴があがるのに、婚約者を撮った時は「アーハッハッハ」という笑い声が流れるという…。ここはメガネの時と違って「でもやっぱ婚約者が一番!」みたいなオチがなかったのもあってちょっときつかった。


最近では減ってきているとはいえ、見た目をいじるのってお笑いでは定番なんですよね。でもこちらの感覚として、見た目いじりはダメでしょってなってきてるのできつい……。吉本新喜劇とかってどうしてるのかな〜と思って、TVerにあったので見てみました。

ハゲデブブスをいじる、見た目いじりそのものは健在。ただ、直接的な表現ではなく、ほのめかす表現になっている印象。私が子供の頃に見てた時の印象だと「こんなブッサイクな顔で」とか「ハゲのおっさん」とか「〇〇みたいな顔して(カエルが潰されたみたいなetc)」とか、直接的にdisるのが多かったように思うんですが、今回見たやつだと「お前はイキるなよ、お前はこっち側やろ」みたいな感じだったり、「ハゲ」を「わずか」として、言い換えてたり。

ただ、見ていて気付いたのが、吉本新喜劇の場合、見た目いじりはいじる側も微妙な容姿であることが多いんですよね。なので、「いやお前が言うなよw」というカウンターが(見てる側の脳内で)成立する(実際にそのツッコミが入る時もある)。これは元々そうだったのか、最近そうなったのかがわからないんですが、役の設定上、「かっこいい」「綺麗な」役として出てきてる人達は見た目いじりに参加しない。

けど、「結」では、見た目いじり、いじる側が俳優なんですよね。普通に顔のいい男がやってるので、このカウンターが成立しない。「あっ、そっすね」となるしかない。それですごくきつく感じてしまうのかな〜という気がします。

きつさを和らげようと思ったら、たぶんその後に俳優を落とすとかになるのかな。「いやお前もこういうあかんとこあるやろ!」みたいなのが来たらだいぶ印象変わりそう。

[2/27追記]
ちなみに大阪公演では、ヘアメイクさんのがんばりにより、婚約者の髪型やメイクがどんどんおもしろいことになっていき(笑)、結果、見た目いじりというよりは「変な髪型いじり」や「そのメイクなんなんだよ」といういじりになっていました。狙った変更なのかはわからないですが、よかったな~と思います。あとキャストもそこで初見だからけっこう笑っちゃっててかわいかった(笑)

ノンバーバルだと難しいこと

吉本新喜劇を見ていて、他にも気づいたことがあって、ノンバーバルだと、解説ツッコミが出来ないんですよね。「今やってたのがどういう意味を持つのか」を説明するツッコミが吉本新喜劇ではわりと出てくるんですが、ノンバーバルだとこれができないので、ボケの段階で客に伝わらないといけない。

あと、声が出せるとツッコミの勢いが出る。逆にいうと、声が出せないとツッコミの勢いが出しづらい。「結」を思い返すと、わりとはたいて止める展開が出てきてたんですが、喋らずに勢いだそうとすると、どうしてもそういう方向になるんだなと。

廣野くんについて

廣野くんの役は次男でナルシスト設定。ちょいちょいかっこつけしぐさとか、自分に酔ったような動作が入るんですが、非常にハマっていて違和感なかったです(笑)

牛乳一気飲み

婚約者との対決で牛乳一気飲みをやる展開になるんですが、他の人たちが1杯ずつのところ、廣野くん演じる次男はお調子者の四男のせいもあり、合計4杯飲む役回り。見た感じ、1杯が300mlぐらいあるんですよね…(笑)。1杯目の時は「飲むの早いな~あれもはや飲むというより流し込んでるんだろうな」って呑気に見てたんですが、4杯目、リアルにきつそうだったので、ちょっとハラハラしました(初日昼とかちょっとうぷってなってたし…)。ただ、4杯目飲む時の覚悟決める感じの表情には色気を感じてぐっときました。

殺陣&歌

妹が土俵を踏んでしまったことで現れた存在と4兄弟が日本刀で戦う展開になるんですが(文章で書くとなかなかカオスだ)、廣野くんの殺陣見てみたかったのでめちゃめちゃ嬉しかった~~! しかもそこに事前録音だけど廣野くんの歌唱が被さる!(笑) 殺陣来たー!って喜んでたら刀をマイクがわりに「みんな待たせてごめ~んね♪」って歌い始めたので爆笑しました。ナルシスト設定がそんな効き方してくるとは。初日は笑いすぎてまじで何も覚えてなかった(笑)

殺陣経験あまりないんだろうなというのがうかがえる感じではあったものの(ひとつひとつの動作をきちっとしてる感じからかな)、動きにめちゃめちゃキレがあって、間合いも正確だし、見てて全然不安感がなくて、バチバチでかっこよかった…! 殺陣いけると思ってた!嬉しい!と私はテンション爆上がりでした。

自分に酔って歌いながら殺陣してる設定なので、わりと動きが複雑だったんですが、きっちりこなしていたのがまたすごい。あんなにふらふら動き回りながら殺陣やることなかなかない気がする(笑)

ちょっとした発見とか
  • ナルシスト仕草って推しがやってたらわりと普通にかっこいいなって思ってしまう
  • ずっとまわし姿なのを見てると、まわし姿はなんとも思わなくなり、逆に着流し着てる時にちょっとはだけたり肩が出たりしちゃうのがえろく見えてくる不思議

*1:土俵上で倒れた人への心臓マッサージのために土俵にあがったのすら批判されたぐらいだし