考える練習

舞台やイベントの感想など

リモート配信 うち劇「サイレント ヴォイス」感想

先日こんな記事をあげたものの、
リモート配信の朗読劇に、推しが、来ました~~~! - 考える練習
おもしろくなかったらどうしようと若干ドキドキしてたんですが(笑)、普通におもしろかった…! リモートならではの感触の違いについての発見もあり、個人的には大満足でした。

これまでリアルタイム配信をいくつか見てきて、リアルタイムだと知っていても、やはり映像だといまいち実感がわきませんでした。今回はそれが信じられる感覚があって、何が違うのかなと思ったんですが、たぶん一番大きいのは前日の荒牧さんの配信で「明日朗読劇だね」みたいな話をしてたことなんですよね。それまでも楽しみだな〜とは思ってたんですが、その発言を聞いた時に「明日この人がやるんだ」という実感が急にぐわっと湧いてきて、わくわく感が盛り上がったのを覚えています。テレビの「生放送」なんかは疑ってないのを考えると、これはインターネットに対しての私の信頼が足りていなかったところに、推しの発言でそこが追加されたのかなぁとか思ったり。


配信開始早々、大阪の池田小事件が題材であることが表示されて、これちゃんと見れるかなとちょっと不安になったりしたんですが、いざ見てみるとそこまでエグくなくて、重たい題材ではあるものの重くなりすぎず、個人的には見やすい塩梅だったなと思います。


出演者は3人。弁護団の主任弁護士(荒牧さん)と新人弁護士(大輝くん)、それに対する被告(杉江くん)、という構図の朗読劇。

通常は被告にとって弁護人って自分の味方だと思うんですけど、この被告は早く死刑にしてほしいので、そうしてくれない弁護人たちは「敵」なんですよね。とにかく非協力的で、早く死刑にしてほしいと何度も訴え、気に入らないことがあるとすぐにキレたり解任をチラつかせたりする。

実際にリアルにいたら関わりたくねぇ~という感じですが、この被告の演技がとてもよくて惹きつけられました。無気力なようで注意深く相手をうかがっている目線とか常にちょっと揺れてるような身体の動きとかから、被告の精神的な危うさや神経質な狡猾さがにじみ出ていて、めちゃめちゃよかった。

のらりくらりとしていて、馬鹿にするような態度も取る被告に、「あなたはなんでそうなんですか!?」と怒る新人弁護士くん。素直すぎるけど気持ちはわかる。ただ、いくら新人とはいえ、そこまで素直に反応する人がこんなタイプの事件の弁護につくか??と思ったけど、もしかしたら見ている側が置いていかれないための配置なのかもしれない。

事件当時、精神的におかしかったことが被告人の話からわかり、そうなると「心神耗弱」ということになり、犯罪の責任を問えないことになるのでその線で弁護を進めようとします。しかし、しばらくしてそれが嘘であることが判明。追い打ちのように被告の父からの手紙が届き、「あいつは嘘ばっかり言うから信じないでくれ」という内容。


それまで主任弁護士は「弁護する側は被告がどんな犯罪者であろうと弁護士としての役目を果たすべきだ」という信条のもと、あくまで穏やかに被告とやりとりしていました。ここへ来てついに感情を爆発させます。

ここの荒牧さんの演技が怖かった~~。ここは後で詳述します。

売り言葉に買い言葉的な側面もありつつ、主任弁護士を降りますって言うんですよね。事務所に帰ってきて、もうべこべこに凹んでる主任弁護士に新人弁護士くんが「カッコ悪いですね」って言い放つのがめちゃめちゃよかった。まぁいうて先輩に対してそんな言い方はしないだろと思うのでファンタジーだなぁとも思うんですが(とかいって実際の事件でほんとに言ってたらすみません)。

でも実際、心神耗弱が狙えないとなると、もう弁護団にできることないんですよね。現行犯だし、関係ない子供たちを殺したわけだから情状酌量の余地も特にない。

新人弁護士の「やりたいようにやればいいんじゃないですか」という諭しのもと、たどりついた答えが「謝らせたい」。

次からの接見では、なんとか自分のしたことの重大さに気づき、反省してもらうことに注力しだす主任弁護士。結局そこまではたどりつかず、迎えた最終弁論。

「最後に何か言いたいことはありますか」とうながされても結局謝罪の言葉は口にしなかった被告人。

その後、もう一度弁護士二人と会った時もあくまで謝罪の気持ちはない、と言うのですが、盛大に揉めながらも主任弁護士を解任しなかった理由について、「ばあちゃんに似てる」と言いだします。

「あいつ、バカみたいに俺のこと信じて… どんだけボロボロになってもずっと俺のこと信じててさぁ…」と語る表情や口調は嘲るようなんですが、哀惜や愛情が感じられて、おばあちゃんが信じてくれてたことが被告にとっては救いだったんだろうなというのと、これを弁護士に話すのは、少しは心を許したのかな…というのを感じて、じんわり泣きそうになりました。


1部の時は時々画像が止まってサウンドドラマ状態になったり、2度ほど完全に止まって一時中断したり、と通信での問題が頻発していてなかなか集中しづらかった…。2部では直っていて、ほぼほぼ止まることもなく見られてよかったです。オンラインでの配信はこういう問題が発生しうるのが難しいところですよね…。無料ならまぁいいかと思えるけど、お金取るならこのあたりはちゃんとしていてほしい。


1部の時は荒牧さん演じる平弁護士が何したいのか途中までよくわからなくて、「謝らせたい」というのが出てくるまでずっともや~っとした状態で見てました。2部でようやく、最初は職業的な倫理観から、ちゃんと弁護しないと、と思っていたのが途中で決壊し、そこから「謝らせたい」につながるんだなというのがわかって、それからはすっと感情が染み込んでくるようで、すごくお芝居として面白かったです。

キャストさんたちも1部の時は緊張してたのが、2部は変な緊張が取れてのびのびとしていて、感情がクリアに伝わってくる感じがあったので、そのせいもあるかもしれない。

そんなわけで2部の方が感情を味わえる感じだったんですが、荒牧さんの怒りの演技が、意図的なのか、自然にそうなったのか、1部に比べるとけっこうボルテージがあがった感じだったんですよね。怒りが湧き上がるシーンは何回かあったんですが、毎回1部より程度が高めで、特に感情が高ぶるシーンでは、これ以上高ぶるとセリフが言えなくなるのでは?と思うようなギリギリのラインっぽい感じで。それ見ててちょっとしんどくなってしまって。軽く目をそらして横の杉江くん見たりしてたんですが、これまで怒りを飛ばし合うような演技見てても目をそらしたことなんかなかったから自分で意外でした。杉江くんもだいぶ振り切った怒りの表出してたんですが、コントロール効いた感じではあったからなのか、こっちはそこまで気にならず。

カメラ目線でこっち見てるとはいえ、別に自分が怒られてると誤認したわけではないんですよね。そのセリフと感情は被告に向けられたものであることは理解していた。ただ、怒りの感情をまっすぐ、ダイレクトに受け取ってしまったような感覚がしんどかったのと、真正面から見る怒りの表情が怖かったのを覚えています。

通常の舞台と比べると準備期間が短い分、あまり複雑な色味のない、純粋な「怒り」に近かったのも原因なのかもしれないな…。クリアな分、すぱっとささってしまうというか…。



それから本編後のフリートークについて。
終わった直後なので全員リアルお疲れ様でした~~状態で、しかもトークテーマの設定もなかったので、すごいゆる~っとした感じだったのがおもしろかった(笑)。トークテーマは話すとっかかりとして用意してあげたほうがよかったんじゃないか?と思うけどもw

杉江くんの「頭かっぴかぴになってきた」に対して大輝くんが「ほらもう思いついたことそのまましか喋れなくなってるじゃん」って言ったのがツボでした。

本編に対してのそこまで深い話は出なかったかな~という感じなんですが、朗読あるあるの準備期間の短さについての話が出まして。杉江くんが「あぜみちを走ってるみたいだった」って言ってたのが印象的でした。「普段はあぜみちを稽古でならしていくけど、今回は準備の期間が短かったから、あぜみちをそのまま走るようだった」と。


バストアップでの配信だと普段の観劇とは違う感覚で吸収できる部分があるんだなというのがわかったので、またこういう機会があると嬉しいなぁと思います。