<創作> 三日月の部屋を山姥切が掃除する話
※ステのお話ベースなので、pixivにあげるのもなんかな~と思い、ここに。
※カップリング要素はないです。
※悲伝~慈伝の間の話。
※本丸お引越ししてません。
※慈伝が上演されたことにより、設定に齟齬が出てしまったので、そういうのは見過ごせる方向けです。
◇◇◇
手元のメモを見ながら、出陣の結果について報告する山姥切。
以前からきれいな顔ではあったが、例の件以降、顔が少し、凛々しくなった気がする。
「報告は以上だ」
負傷した刀剣男士は手入れ部屋へすでに連れて行ったとのことだったので、じゃあ今日はもうゆっくり休んで、と伝えると、ふいに山姥切の顔がぴりっと引き締まった。
「主、ひとつ頼みがあるんだが、いいか」
「どうぞ」
「三日月の部屋を、掃除してもいいか」
みんながなんとなく、触れないようにしていた。
久しぶりに聞く名前に思わずはっとした審神者を、山姥切の目がまっすぐに見つめている。
「もちろん、いいよ」
ありがとう、と伏せられた目には、何が映っていたのだろう。
◇◇◇
三日月の部屋の前まできた山姥切はそっと息を吐いた。ゆっくりと襖を開ける。閉め切られていたため、少しかび臭い匂いがする。
襖を全開にし、はたきを持って室内に入った。かすかに三日月の残り香がする、ような気がする。
向かって左に衣装箪笥、右手に書棚、真ん中には文机が置かれていた。箒を置いて、衣装箪笥から取り掛かる。上にうっすらと積もった埃をぱたぱたとはたきで落としていく。ふわっと舞った埃にあわててフードで口元を覆う。
次は書棚。上半分は磨りガラスの引き戸になっている。上の埃をぱたぱたとはたき、ガラスの引き戸は一瞬躊躇ったが、まぁ大丈夫だろうと見当をつけ、そっと開けた。大半は勉強会で使った資料だったが、合間に小咄集や艶話集などが挟まっている。じじいらしいな、と笑みがこぼれた。
本を少しずつ移動させながら、ガラス戸の隙間から侵入したほこりたちをそっとはたき出し、またガラス戸を閉めた。
文机に移る。筆が納められた箱の埃をぱたぱたと落とし、箱を持ち上げて机全体の埃を落とす。乾拭き用に布を持ってきていたのを思い出して、そっと机を拭いた。布をひっくり返し、もう一度、丁寧になぞる。掃除用具をいったん脇に置き、文机の前にちゃんと座ってみた。
(部屋にいる時は、いつもここに座っていた)
その場所に今自分が座っているのは、変な感じがする。
なんだ?と振り向く柔らかい笑顔。
おぉ、山姥切か、と少し驚いたような表情。
ふいに蘇った思い出にぼんやりした。
よくないかな、と躊躇いつつもそっと引き出しを開けてみると、そこには、どんぐりが入っていた。
転がってしまうのを防ぐためだろうか、柔らかい布の上に置かれているどんぐりは、20個ほど、どれもつやつやと光っている。
「山姥切さん?」
不意に声をかけられ、振り返ると部屋の戸口に小夜がいた。
「小夜」
「ここ……三日月さんのお部屋ですよね?」
「あぁ。掃除する許可を主にもらって入っている」
不思議そうな声に答えると、小夜がそっと部屋に入ってきた。物珍しげに見回している。
その様子がおかしくて、思わず笑いがもれた。きょとん、とこちらを見た小夜は開いたままの引き出しに目を止めた。
つつ、と寄ってきた小夜に見えるようにスペースをあける。座りながらのぞき込む小夜。
「どんぐりが入っていた」
「綺麗です」
「そうだな」
「……時々、拾ってましたね」
「うん」
よみがえる思い出に浸りながら、そっと引き出しを閉める。
畳を箒ではき、うっすらとたまった埃を回収。たいして物もないだけに、すぐに終わってしまった。
部屋を出ると小夜が戸口の脇に立って、庭を眺めていた。
まだいたのか、と少し驚いて足が止まる。
「山姥切さんに見つけてもらうのを待っていたような気がします」
一瞬、なんのことかと思った。
「俺に?」
「はい」
そう、なのだろうか。
「そうだといいな」
小夜の目がちら、とこちらを伺う。
「勝手に開けてしまったし」
ふふ、と声が聞こえた気がした。
◇◇◇
後書き
悲伝の2ヶ月後ぐらいにネタだけ思いついて温めてたら慈伝が来てしまった作品になります。見て三日月を思い出すものってなんだろうな~って考えてどんぐりをモチーフとして選んでたんですが、慈伝でどんぐりが思いっきりそういう意味合いで出てきてびびりました(笑)