考える練習

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「また明日!」- 朗読劇「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」感想

8/30(水) 20時 松田凌内田真礼 回を見てきました。

これ東宝の企画だったのか~とパンフ見ながら知りましたが、90分という短めな時間でぎゅぎゅっと詰まった、愛と切なさを受け取れる朗読劇でした。

Story
京都の美大に通うぼくは、通学電車で出会った女の子に一目惚れし、思い切って声をかけた。すぐに意気投合し、ごく普通の恋人同士になったぼくたちだが、初めてのことがあるたび、彼女はなぜか涙を流す。ある時、彼女の言動に違和感を覚えたぼくが尋ねると、思いもよらない答えが返ってきた。「あなたの未来がわかるって言ったら、どうする?」彼女の秘密を知ったとき、ぼくたちの恋は“すれ違い”始める――
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初めての出会いから少しずつ距離を縮めていく二人。
初々しい様子がとてもかわいらしく、初めてのことがあるたびに彼女が涙を流す以外はとても微笑ましいカップル。松田くんがちょいダサな服装と眼鏡なのがとてもいい雰囲気を出していて、物慣れない大学生役にめちゃくちゃはまってました。

少しずつ名前の呼び方が親しくなっていき、お互いの口調が気安くなっていって、手をつなぎ、キスをし、と少しずつ関係を進めていく様子に、最初のあたりはむずがゆいような気恥ずかしさを感じ、親密になってからはドキドキしました。

朗読劇とは言いながらもちょこちょこ立つ位置を変えたり、動作を入れたり、目線を交わしたりしていて、なかなか見た目も楽しい舞台だったのですが、手を繋ぐシーンで二人が近い位置に立ってたので、繋ぐのかと思ったら繋がなかったのは「繋がないのかよ!」と内心つっこんでしまいました(笑) でもなんだろうな、そのシーン、触れようと思えば触れられるのに、実際には手を繋がず、お互いにすぐそこにある手を意識しながらセリフを言っているのがかえってどきどきしました。

キスシーンや抱きしめるシーンも実際には動作はなしで、地の文で彼による情景描写が入ったりセリフがあったり、だったんですが、想像力で補うしかないのがかえってエロかった…。


序盤からお隣のお姉さんが時折ハンカチで目元を押さえていて、2回目だとなんか泣きポイントなんだろうな~とは思ってたのですが、中盤で、彼女が未来から来たこと、正確には彼女の時間軸は彼のそれと逆行していることが判明します。

彼にとっての昨日は、彼女にとっては明日で、
彼にとっての明日は、彼女にとっての昨日。

後ろの壁に説明のための図解が出るのめちゃくちゃわかりやすくて最高でした。


要は時間軸のズレを利用した記憶喪失モノなんですよね、これ。
彼女側から見ると、時がたてばたつほど、彼の過去にさかのぼっていくので、親密さが逆行していってしまう。初めてのことをするたびに彼女が泣いていたのは、それが彼女にとっては「最後」だったから、というのを聞いたあたりからじわじわ涙が。

初めてのハグも、初めてのキスも、初めての手つなぎも、彼女にとってはそれが最後。

「つきあってください」という言葉は、明日からは付き合ってない状態に戻ることを意味する。

そして、初めての出会いは、最後の逢瀬となる。


あれ、でもそうすると、彼にとっては過去の出来事でも、彼女にとっては未来の出来事なのに、なぜちゃんと記憶がつながってるようになっていたのか?となるのですが、未来の彼(彼女にとっては過去の彼)から、詳細に聞いていて、その筋書き通りにやっていたという。

「あなたの過去を変えたくないから、詳しく教えて。そのとおりにやるから」
「でもそんなの楽しくないじゃん」
「大丈夫、一緒にいるだけで楽しいから」

というのがもうねー…。愛の大きさがすごい。

さらに細かい設定として、彼女は時間軸が逆な世界から来た異世界人で、5年に1回、1ヶ月しか会えないことが明かされるんですが、彼女が5歳、彼が35際の時に、命を救われた時にひとめぼれして、それ以来、二人の年齢が同じになる20歳を楽しみにしていたというエピソードが出てきて、めちゃくちゃキュンキュンしたよね…。

事情がわかってからはだんだん彼にとっては彼女と会える最後の日が近づいてくることになります。そして、最後の日。彼女にとっては初対面の日。
「おはよう」と言う彼に、「おはよう、ございます」とぎこちなく返す彼女。

別れの時が近づいて、初対面だったのに、すぐに違和感なくなったよ、という感じのことを言う彼に、彼女が「『おはよう』にこれまでの関係がつまってたから」っていうのがすごくよかった…。実際、彼の方のセリフは本当にそういう感じだったんですよね。これまで彼女と紡いできた思い出が、関係性が、全部つまっていた。


そこから、ターニングポイントとなる思い出が巻き戻して追想されていきます。彼女視点ではそれこそが未来へ進む、本来の時間軸だから。そして、彼女が泣いたポイントが彼女視点で再演されていって…全部、彼にとっては初めてだけど、彼女にとっては最後。

「知れば知るほど、一緒に過ごせば過ごすほど、どんどん彼のことを好きになっていった」
一方で、どんどん彼の方の時間は巻き戻っていく。
「抱きしめあわなくなって、キスしなくなって、手をつながなくなって」
名前の呼び方が、どんどん戻っていく。
「でも、私はどの呼び方にも、これまでの全部の関係を込めるから。たかとし、たかとしくん、南山くん」


そして、出会いの日まで、戻ってきます。ぎこちない会話をし、もう時間だからと言う彼女に彼が「また会える?」と聞き、「うん」と答えると、「また明日ね」と。

彼女にとってはそれが最後。明日はない。でも。

「また明日!」