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舞台「炎の蜃気楼 昭和編」第3弾「夜叉衆ブギウギ」 感想②

感想①はこちら
hirokuhukaku.hatenablog.com

こちらの記事では、「がめ医者エレジー」と「やどかりボレロ」について。

がめ医者エレジー

感想らしい感想がほぼない…(汗) 毎回この後の話でぶっとんでしまったんだろうな…。当時の時代背景がよくわかる感じの話でわりと好きではあるんですが。

ハンチングかぶった加瀬さんのやさぐれ感がたまらない。パンパンの女の子の真知子さんが好きです。色部さんが診療所に来て、「あ~ら」って出迎えてから、流し目しつつ出ていくところがいい…。

やどかりボレロ

このお話はとてもよかった…。見どころが多すぎて、まとめるの無理!ってなった結果、書きたいシーンについて書くみたいになっているので、非常によみづらい上に長いです…。

いきなり裁判シーンで、初見時は度肝を抜かれました。あれは景虎の妄想ってことでいいのかな。直江があんな直球に言うなんてないもんね。

2回目以降はほぼほぼ荒牧さん定点カメラと化してたんですが、直江はずっと景虎のことを冷たい目で見てるんですよね。晴家と色部が真摯な目で見てるのとは対照的。喋ったと思ったら「つまり、人が生まれないようにすればいい」。景虎が驚愕の表情で見るけど、私も最初、ぽかんとしました。その後、怒涛のセリフ合戦ですが、ああいう、冷たい、人を嘲った感じで喋る役どころの荒牧さん初めて見たので、めちゃくちゃ新鮮でした。

同じ役者さんを何回もいろんな役で見て、見慣れてくると、これはあの人が演じてるんだ、というのを頭の片隅で意識しながら見ちゃう部分があって、直江もそういう部分はどうしてもあるんですけど、このシーンに関してはあまりそのあたり意識せず見ていた気がします。

暗転直前の「そうなった時、あなたは私のものになる」のところは言い回しも表情も圧巻。目が感情をすべて物語っている感じがしてすごかった。ここ、少なくとも水曜段階では、言い終わった後、表情はそのままで暗転だったのが、金曜昼は、セリフ言い終わった後、片頬歪めて「ふっ」って笑っててびっくりしました。土曜昼も同じ感じだったので、やっていくうちにあのシーンの解釈が変わったのかな。セリフ言う前も若干嘲笑うような表情してた気がする。

暗転の後、今度は現実世界。壁にもたれ、蕭然とした様子で佇む直江。つらく悲しいシーンではあるのですが、所在なさげに佇み、怒号のする方を見やってつらそうな表情を浮かべる直江がひたすら美しくて、お気に入りのシーンの1つです。

山口を死なせてしまい、今度は、尚紀の人生を奪ってしまう。直江は成人換生は初めてだったのかな。そんなにきちんと死なせたことを受け止めていたら、大変すぎる、もっと割り切ればいいのに、と思うんですが、その人の人生も生きていただけに、割り切れないのかな。

「一番違和感を感じていたのは、お前の家族じゃないのか」って言われて、最初の頃は細々と指摘された、と直江が言いますけど、あれ実際、リアルに考えると家族はどう納得したんだろうなぁ。意外と人って、他人の振る舞いの癖を無意識に覚えてたりするんですよね。

場面変わって、お母さんと秀子さんの買い物に付き合わされる尚紀。このくだりは毎回癒やしでした…。おぼっちゃん感ある振る舞いも楽しみにしていたので、嬉しかった。景虎と遭遇したあたりから、ちょっと直江な表情になるんですけど、まだやわらかい感じで、完全に直江じゃないんですよね。「尾行?なんで?」のあたりもあどけない感じで、この表情の違いがよかった。

不審な手紙の差出人を追って、和歌子にたどりつく二人。ささいなきっかけから中身が違うことに気づかれてしまう訳ですけど、理由が「大事なことを覚えていない」であることを考えると、脳の機能障害なんかで覚えてないことが出てきた場合もこう疑われる可能性があるんだなーってちょっと怖くなりますね。

あやうく陸軍に連れ去られそうになるところを景虎が助けに入って難を逃れる尚紀。

その後、換生して人の人生を奪ってしまうことへの苦悩の吐露が始まる訳ですが、胎児換生した場合は、数年生きてからそのことを思い出すんですかね? 気がついたら…であってほしい。いや、結局、人の人生を奪ったことは思い出すんだろうけど、こんな苦悩、毎回背負ってたら心が持たないよ…。

「罪ですよ。少なくとも和歌子にとっては」と言い切る直江。けど、そうだよね、表面上は同じに見えても、中身は別人なんだもの。もう尚紀はいない。

「私たちはなんなんでしょうね」と苦しい気持ちを吐露する直江が、不謹慎だけどとても美しくて、なんで苦悩する表情はあんなに美しいんでしょうね…(哲学)。上手前方1回だけあったんですが、その時に表情がよく見えて、とても美しかったのでぜひ映像に…入っていてほしい…。

「宿体に肩入れするな!」と声を荒げる景虎に「尚紀を愛する人たちから、尚紀を奪いたくないんだ!」と返す直江。切ない。
「お前がお前でなくなるくらいなら、尚紀の記憶など全部消し去ってしまえ!」
「それは…どういう…?」
ここで直江が期待していいのかなっていう顔しててめっちゃかわいかったんですけど、そこで素直に返す景虎だったらこんなに二人こじれてない。センチメンタルな青臭い理想論にしがみつくお前が滑稽なだけだ!(大意)みたいなことを言い放つんですよね。そこからはいつもの売り言葉に買い言葉。

「暴いてもいいんですか…?」「被害妄想の次は、今度は妄言か」「私が行動に出ないだけだと、考えないんですか…?」このあたりで場内がしん…と静かに。
ここから景虎が直江に向かって、ゆっくり間合いをつめていくんですけど、
このシーンは毎回、すごかった…。
身じろぎどころか、息をする音すらはばかられる静けさ。
しかも、景虎が間合いを詰めるにしたがって、空気の圧がましてくような感じがして、毎回あのシーンは息苦しかった…なんか意識しないと呼吸ができなくなるんですよね。私だけかな?

「物欲しそうな顔してやがる」の景虎様の余裕な感じの表情もいけすかなくて最高なんですけど、それをずっと冷めたような目で見てる直江の表情がまたいいんですよね…。そこからさらに間合いつめて、ちょっと顎あげて、「それはあなたの方だ」っていうのがまた…。煮えたぎる感情を押さえつけて出したような低音が最高。

1回最前センブロだった時があったんですけど、もう本当空気の圧がすごくて、この中で動けるこの人達本当すごいな!?って思った。舞台上はどんな感じなんだろうなぁ、あれ…。視線の圧がすごそう。

この後、「山口と尚紀が同一人物だと気づくやつなんて…あ」っていうところで、「☓☓新聞の滝田ですね」っていう直江の声音がすっと冷徹な感じになるの、毎回聞き惚れてました。滝田=敵、ってなってる直江と、滝田には手を出すなって焦りだす景虎の対比が興味深い。

銃を奪うシーン、景虎を引き寄せて、ばっとジャケットめくる直江見て、最初、え、直江どうしたの?ご乱心?と思ったら銃奪うためとわかって安心しました(笑)

その後、奪った銃を携えて滝田と対面する直江。景虎が連れ去られたことを知って滝田につめよる直江が最高すぎてですね…。色部にそのことを聞いて、滝田の方を見て、憤懣やるかたない表情になっていくのもすごくよかったんですけど、その後滝田につめよるところの声が、心の底からの、叩きつけるような声で、なりふり構わなさがまさに「狂犬」。特に「連れていけ滝田ァ!」のところ、むき出しの感情が出てる感じが最高でした。

で、その次が景虎拷問シーンからの独白シーンな訳ですが…。独白シーンは、これは見ちゃいけないものだ、と思いつつも目が離せなかった。

武将たちに対して、怯え、恐怖に震えながら「来るな!来るな!」と腕を振り回す景虎様。弱さを全面的にさらけだしているシーンであり、景虎としてはみっともないシーン、絶対見られたくない部分。なのですが、ゆえにそれを演じきる富田さんがとてもかっこよかった。

生で見ていた時は、このシーンは毎回見ていていたたまれなくて、痛みをこらえるような渋い顔をして見ていた自覚があるんですが、こうして振り返ってみると、とみしょーさん綺麗だったなーって印象が残ってて、なんか不思議な気分です。

「直江…?」から始まる直江への気持ちの独白。
「かわいそうになぁ…こんな男におしつぶされそうになって… でも俺はお前じゃないと駄目なんだ… だからお前が絶対に倒せない、唯一の存在でなくちゃならない」
直江への気持ちの切実さがすごく心に響いてきて、痛いような、きゅんとするような、なんとも不思議な気持ちにいつもなってました。特に「でも俺はお前じゃないと駄目なんだ」のところが泣きそうな感じで…。

「あぁ…灼かれるみたいだ…」のあたり、恍惚とした表情で、通常なら、エロいとかの評価になるのかなーと思うんですが、この、景虎のに関しては、もはや怖い。鬼気迫るってこういうのを言うんだな…と。

直江が走り込んできてからの「骨までしゃぶれ」シーンも、きゃー密着シーン~っていうどころではなかった。景虎の鬼気迫る感じが怖くて*1

和歌子にあらためて会った後。
「尚紀はずっと、忘れてなかったよ」が切なくて、切なくて。
「私が傲慢だったんです」っていうのは、酷な話だけど、その通りだよね…。要は精度の高いなりすましだもんなぁ。

レガーロにて大仕事。
尚紀も手伝って!って花を渡されますが、これが最初は普通に手に渡してたのが、途中から尚紀の服に貼り付けるようになって、おもしろかった。花を渡された尚紀がどう考えてもそこじゃないところに花をつけるのもおもしろかったですが、土曜マチネで、マリーのスカートに一個つけて、さらにもう一個をふくらはぎのあたりにつけようとしてて、マリーに虫でも止まったような足の払い方されてたのがすごくおかしかった。
執行社長が入ってきちゃったことに対して、景虎と直江が下手で「どうして止めておかない!」「いや、私も今さっき来たばかりなのに無理でしょう」「ちっ」って言い合いしてるのがかわいかった…。
また土曜マチネなんですが、執行社長を追い出した後、カウンターで何かおもしろいことが起こったようで客席が笑いに包まれたんだけど(私は直江がかぶっちゃって何が起こったかわかんなかった)、「ここに長秀もいればよかったですね」って言おうとした直江が、「ここに」でそっち見た瞬間吹いちゃって、しばらくセリフ言えなくなったのちょっとどきどきした。その後ちゃんと言ってましたが。

*1:だがしかし、全くドキドキしなかったといえば嘘になる